ビリーバー(2010/09/11夜、2010/09/12 世田谷パブリックシアター)

初めて訪れた三軒茶屋という街は、思ったよりもごちゃっとしていて、お店も施設もあらゆるものがひとところにギュッと凝縮されていて過ごしやすい(笑)、ヒジョーに好みな感じでした。“カルチャー”なにおいがそこかしこから漂ってくるような。もう少しだけ滞在期間を延ばして、放射状に伸びた路地をあちこち散策してみたい…、その合間に劇場通いとか洒落込みたい…という欲求がめらめらとわいてきて困った。世田パブでもらったフライヤーの束、そそられる作品が目白押しで…(来年5月のアツ兄&風間さん舞台速報も入ってました!コピーしたものを輪転機にかけてそのまま出しました、って感じの!)。
以下、舞台感想。内容にも触れてます。
※あらすじ等はこちらから↓
『舞台ビリーバー/Believer』オフィシャルサイト




風間さんがアメリカの9歳児(名前はスティーブン!)を演じるという事で、楽しみ半分おっかなびっくり半分で臨みました。結果……風間さんかわいかったぁぁぁっ!!というかですね、姿形が“兼末健次郎”なのです。あの育ちの良さげなお坊ちゃんヘアー、グレーのパーカー、チノパンにスニーカー…。健ちゃんが2010年の世にそのまんま再現されてた、しかもテレビのブラウン管(古)を抜け出して生身の存在として目の前に立っていた。登場した瞬間、文字どおりハッと息をのみました。健ちゃんは、私の青春の小箱の中のとっておき。それをいまさら取り出されて差し出されて、冷静でいられるハズがありません。「パパ!」「ママ!」「もうやめてよ!」「わかんないよ!」などなど、スティーブンのあんなセリフやこんな仕草の数々がデジャブ!デジャブ!のオンパレードで、初見時は終始「健次郎あばばば」状態でした…。
成人男性が少年を演じるというのは、一見突飛でもしかしてイロモノ狙い!?と危惧したけれど*1、決してその設定にしばられる必要はない、というのは観てみて納得しました。杞憂もいいところでした。物語において大切なのは純粋さ、葛藤や反発(そして受容)といった心情の動き。それらを浮き立たせるのにたまたま好都合だったのが、大人の入り口にさしかかった9歳(〜10歳)という年齢設定であり、親子という関係性であり。そして、実年齢27歳という、とっくにオトナになりきってしまった役者が“子ども”となって表現するからこそ、成長に伴ういたみや悲哀といったものがより説得力を持って伝わり、深くせつなく染み入ってきた気がします。
それにしても風間さん、まっすぐな瞳(ちょっぴりつぶら☆)を持った純粋な少年そのものでした。実際はお酒大好き女の子大好き(本人談)、酸いも甘いも味見し尽くして世の中を斜に構えて見てる紛れもないオトナなのに(笑)。ちょっと外見をいじっただけで10歳以上若返るというのも驚異的だけど、それだけではあのピュア感は醸し出せないハズ…。ほんと怖い。あの27歳怖い。役者って怖い。
単純に「良かった」「おもしろかった」という感想で終わらせるのはもったいない気がする、そんな舞台でした。テーマはシンプルに一貫して在るのだけど、散りばめられる膨大なキーワードが宗教であったり哲学であったり天文学であったりと馴染み薄い専門的なものが多く(そのほとんどを、勝村さんが台詞内で滔々と喋っていた)、一回観ただけではそれらを拾うだけでかなりいっぱいいっぱい状態に。ただ、「宇宙は誰が作ったの?」「どこまで続くの?」「神様は、サンタは本当にいるの?」等々といった、誰もが一度は抱えた事のある疑問を少し小難しい言い回しに変えてあるだけ、だと思えば、けっこうすんなりと頭に入ってくるようになりました。小さい頃に抱いた疑問たちは、それについて考えれば考えるほど深遠な闇にハマっていくので、いつしか自分の中で適当に折り合いつけて蓋をしてしまった。私の場合は真っ向否定ではなく、「科学や理屈で説明できないものはきっと何かしら存在するハズ」と思ってるクチなので、どちらかといえばハワード(サンタを信じる父親)寄りの思考なのかもしれません。
キューブのようなボックスのような黒い立方体を、演者が絶えず変幻自在に組み合わせていく、流動的な舞台セットは新鮮で面白かったです。場面転換の役割だけでなく、キャストの心の動きをも表現してるのかなとあれこれ想像してみたり。スティーブンが要塞のようにキューブを積み上げていくのは猜疑心の表れで、そうしてできた二つのタワーをいきなり打ち崩すのは、“911”のあのビル爆破シーン再現であると同時に、殻を突き破ってオトナになりたいという息子の欲求があふれ出したのかな、とか。観る側に色んな解釈を委ねようという演出側の遊び心を感じました。そしてまんまとその仕掛け遊びにハマりました。イマジネーションをフル稼動して答えを見つけ出そうとする楽しさ。
とてもよい作品を見る事ができた、と、時間が経つにつれてじわじわ実感してます。派手さはないけれど誠実で。遊びもあるけれど芯は通っていて。適切な言葉ではないかもしれないけれど、「高尚な舞台だったなぁ」と。観客側もピンと背筋が伸びるような。でも決して強要ではなく、素直に「この作品に見合った観客でありたい」と思いました。もっと観たい、あの世界一ピュアな親子にもう一度会いたい、と、たまらずに東京からの帰り道ふらりとコンビニに立ち寄り、大阪公演チケットを購入したのでした…。

*1:公式サイトのふわふわほのぼの感やキャストの特徴からいって、始まるまではいわゆる「アメリカンホームコメディー」的なお話だと思っていたので…